夢の中の人【後編】

交差点を過ぎたところだった。あれ?最初、目を疑った。夢のなかのあの人がいる。紺のポルカドットの白地のブラウスに、ベージュ色のセミタイトのスカートを着ていた。夢のなかとは時代も服装も違っていた。でも間違いなく彼女だ。僕は見失わないように後を追った。すると彼女は振り向いて、僕に会釈した。
僕は向こう側にいる彼女目差して、迷わず道を渡った。

「あの、すみません。どこかでお会いしたことがあるように思ったものですから・・・」

息を切らせながらも、僕は必至だった。夢のなかで僕は彼女と一緒にいた。彼女はバラの香りがした。僕たちは互いを知っていた。
彼女の澄んだ目が真っすぐ僕を見ていた。心の奥底まで浸透するような瞳で。

「やっと、会いに来てくれたのね」

彼女がそう言った。虹色のエネルギーが僕を貫いた。

目を覚ますと、木漏れ日が降り注いでいた。風の音が弾け合って、クリスタルな音を奏でていた。僕たちは森のなかにいた。

「おかえりなさい。あなたを待っていました」

「ここはどこですか?」

「西暦3415年の地球です。私たち人間はより高い次元の民となり、衣食住の束縛から解放されて、光の人となりました。今でもあなたが食事を取りたければ、取ることもできます。ただ私たちの体は食物なしでも生存できるのです。病も老いも死もありません。真実の愛と平和の星へと地球は進化したのです」

「どうして僕はここにいるのですか?」

「ここがあなたの故郷だからです。家だからです」

僕は頭を振って、目を凝らして辺りを見渡した。巨大な木が間隔を保って生えており、緑の苔の絨毯が地上を覆っていた。さまざまな花が咲き乱れ、シダ植物が木漏れ日の差し込む場所で生えていた。
生まれてこのかた、こんなにも美しく、平和に満ちたところを見たことがない。ここは天国だろうかと思ったりもした。

「目覚めたいですか?」

「あなたと一緒にいられるのなら、目覚めたいです」

「行きましょう」

彼女と手を繋いだ途端、湖が現れた。僕たちが湖に入ろうとすると、水かさが浅くなり、小径のようなステップストーンが現れた。僕たちはその石の上を歩いた。歩き始めると、辺りの景色はまるでパノラマのスクリーンで見る映画のようになり、これまでの地球の歴史を見ながら、僕たちは歩いた。歩きながら僕は、人間がこれまでおさめてきた、ありとあらゆる学問を学んだ。

彼女が僕を見て微笑んだ。そして僕たちは一緒に笑った。子宮にいた頃はこんな風だったのかしら、と思うほど、満ちたりた愛と安らぎに包まれていた。五感は澄み渡り、至上の至福が足元から湧いてきて、僕たちは地上に浮いた。

「もうすぐですよ。これから光のシャワーを抜けます。でも一つだけ、お願いがあります。絶対に目は開けないでください。無事にここを通過したら、私たちは祝福を受けて、完全な人となります」

光のシャワーは神々しく眩しくて、とても目を開けられるような状態ではなかった。僕は彼女の言った祝福について考えていた。その時、不意に彼女の手が僕の手からすり抜けた。僕は考える間もなく、目を開けていた・・・。

朝の光がカーテンから差し込み、僕は太陽が眩しくて目が覚めた。隣にはいつものように穏やかに、佳代子が眠っていた。

仕事が早目に終わり、僕は目的地もなく歩いていた。いつの間にか僕はあの交差点へ来ていた。そして同じ場所で彼女を見かけた。僕は無我夢中で彼女を追いかけた。彼女はゆっくりと歩いていたが、距離が縮むことはなかった。そして彼女は振り向いて、僕に手を振った。彼女の目からスーッと幾つもの涙が流れ落ち、彼女とともに消えていった。