離婚のカギ【最終話】

家に帰ってからも真由美はそのことが忘れられず、その日の夫との会話は殆ど覚えていなかった。

翌日朝早くに夫が仕事に行くと彼女は仕事終わりと思われる久保田に電話をした。

「久しぶり。お前のほうから関係を終わらせようって言ったのにどうした?」

久保田の質問には答えずに、そのまま彼の仕事場の近くのカフェで会うことにした。

久保田と会ってからも特に何を話したいといったことはなかったのだが、昨晩の出来事と財布のプレートが消えたことは何か関係しているのではないかと思わずにはいれず、結果的に久保田に会うことを選んだのだ。

仕事終わりで眠そうな久保田は若干機嫌が悪そうで、すぐにでも帰って家で寝たいという態度を露わにしていた。

結局何も話せないままそのまま久保田と別れたのだったが、家に帰っても釈然としないものがあった。

そのまま夜に夫から求められ、完全にそれどころではなかった真由美は愛情を一方的に受けるだけの情事に嫌気がさし、気がつくと早く終わることだけを願っていた。

会社に向かう人々で賑わう朝の渋谷で、二人のスーツ姿の男が会っていた。

「あれから一度だけ会いましたよ、彼女に呼ばれて」

「それで?」

「ネックレスは付けていませんでした」

「それで?」

「それだけですよ。言われた通り確認だけして、後は適当な頃合いを見て帰りましたから。それより、約束通り今回のことは妻には言わないで下さいよ」

「いいだろう。金もいらない。」

「結局離婚はするんですか?あまり俺が口を挟むことじゃないですけど」

「それを君に話す義理はない。約束通り今回のことは奥さんには言わないでおいてやる。その代わりに二度と私の前には現れないでくれ」

そう言われて久保田は席を立った。

駅の傍の喫煙所で煙草に火を付けながら時刻を確認する。

最後の一本だというのに、恐怖からか煙草の味は全くせず、それどころか上手く吸うことができない。

空になった箱を握りつぶして灰皿の隙間から押し込む。そしてまだ半分も吸っていない煙草を灰皿に押し付けると久保田はその場を離れようとした。

しかし一度だけ引き返し、ポケットから無地のプレートを取り出す。それを灰皿の中に放り投げると彼は足早に渋谷を後にした。